一版二色刷のテストピース
一度の刷で濃淡二色の色を得る方法です。 残念ながら、赤と青の様な色の違いは出せません。 この一版二色刷に付いては、昔から色々な方法が試されてきました。
私が昔、吉田遠志先生から教わったのは、版木にニスを塗ったり、或いはセメダインを塗りつける方法でした。
セメダインは火をつけて燃やすと、更に別の表現も可能でした。
しかし、ここではそれとは別の方法を紹介します。
上の写真は、実際にこの二色摺りを用いた作例です。 空の部分(地の青と薄い雲) 地面の地の色と濃いボチボチに使っています。
下の作例は、また別のやり方で濃淡の二色を摺っているものです。
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この部分の薄緑の模様
このやり方は、私がカリフォルニアのサンタローザに、友人の版画家 Micah Schwaberouさんを訪ねた際に、彼の工房で教わったものです。
彼は、メンドシーノで私が教えた版画クラスの生徒の一人でした。 その後、家族で来日し、横須賀の私の自宅の直ぐ傍のアパートに一年ほど住みながら、私の元で版画制作を学びました。
その後、長野県の美麻村に在った、遠志先生のスタジオでも学んでいます。
彼は、新しい技法の開発にも熱心で、今では、アメリカを代表する木版画の作家になっています。
左は使用する材料
A GOLDEN社製 GEL MED
coarse pumice gel 中目
B 写真は無いが 上と同じ物の粗目
C Liquitex Acrylic Matte Medium
D GOLDEN Fluid Matte Medium
AとBは中に粒上の物が入っていて、固まるとボチボチ状の表現が出来る
CとDは乳液状で水性だが,乾くと耐水性をもつもの。 アクリル絵の具でも代用できそうな気もします。
版にAを筆で塗った
この際、他のC,D,などを混ぜてためしている。
また、向かって右半分は乾いたあと紙やすりの800番程度のものを軽くかけ、左半分は、ヤスリがけをしていない。
緑の色が付いているのは、版にどのように描かれているか見やすくするために、水性の絵の具を混ぜたため。
薄めに塗ったもの、濃い目に塗ったもの、何度か重ね塗りをしたもの、生を使用したものなどが試されている。
下の写真は実際に摺ってみたもの。 絵の具の濃さを変えたり、ばれんを当てる強さを変えたりしながら、10枚ほどのテストピースを作った。 濃い絵の下では4回目のように、薄いおつゆ状の絵の具では5回目のような結果になった。
見ていると・・・・・・清宮質文さんの作品のような、柔らかい表現が出来ているような・・・・
粗目のもの
乾いても意外としっかりと板に着いている。
上のロバに乗った少年達の作品の地面は、これを使った。
昔、海の砂にボンドを混ぜて、同じような実験をしたことがあるのですが、それよりは数段強く付着するようです。
百枚程度なら十分摺れると思われます。
以下は、アクリル系のマットメディウムの例です。
これも、濃さや塗り方を変えて版を作りました。
版としてもかなりしっかりしていて、百枚二百枚程度ならほぼ同じように摺れそうです。
実際、Micah さんはこの方法で、風景の中の濃淡や果物、人物などの表現をし、百枚以上のエディションを摺りきったことがあるようです。
もしそうなら、私もいつか、このやり方で、清宮さんのような、詩情あふれる、柔らかい色彩の作品を作ってみたいですね。
拡大図
粗目のもの
最後にお見せするのは、二枚のトレーシングペーパーの間に糸くずを挟み込んだもの。 これを当て紙の代わりにして摺ると、糸の部分が地よりも濃く摺れ、模様が出ます。 (上の作品の作例参照) これは、お茶の葉や細かく切った紙片など、中に入れる物を変えると、更に様ざまな模様のバリエーションが得られます。 簡単ですが面白い表現が出来ます。
版を彫っているのとは違う、エッヂの柔らかさが良いですね。 筆でそのまま描いたような表現も可能ですね。
&作品への応用
作品への応用を見てみましょう
バックの砂地に利用
すり終わった版
拡大図 版は彫っていない
拡大図
別の作例
砂地の拡大図
完成作品
この版は、単に私が好きな版 版そのものが美しく
自分で彫ったのですが、見とれてしまいます。
実際の版はもっと藍色が美しいのですが・・・・